野辺山高原マラニック



8月下旬、都会はまだ連日35度を超えて暑い盛りだった。一日くらい逃げ出して涼しい高原を走りに行こう。

妻とともに始発電車に乗り、中央本線各停に揺られて小淵沢、9時半過ぎに山梨県清里駅に降り立った。


ここがアンノン族の若者で賑わったのはもう何十年昔のことだろう。

まだ夏休みの期間だったが平日であったこともあってか、観光客は散見されるほど。

今では、すっかり落ち着いた風情となっていた。


雨天予報を避けて急遽一日前倒ししたというのに、当日朝の予報までもほぼ終日小雨になってしまっていた。

やむなく傘とポンチョをリュックに追加して向かうと、小淵沢から清里への小海線では窓に雨粒が流れていた。


ところが、清里駅を出てみると青空が覗いている。

これはありがたい。

また降り出す前に清泉寮のソフトクリームだけは食べておこう。


ボタンヅル
平地で見かけるセンニンソウと花の形はよく似ているが、
ボタンヅルの葉には切れ込みがある


駅前の道は少々曲がりくねっていてわかりにくい。

ちょっと道を間違えつつも清泉寮ファームショップまでいきなりの坂道をヒーヒー上る。


駅の標高1275m。亜高山のマツムシソウが咲いているかと思えば、平地からすると季節遅れのギボウシや萩も平気な顔で並んでいる。

頭の上をひょいと見上げると小粒の山栗が実り、すっかり秋が始まっていた。


広々とした牧草地を望むテラスでジャージー牛のソフトクリームを舐めているうちに、

青空がぐんぐん広がってきておいしさも一段と増した。

きまぐれな山の天気に感謝だ。私の雨男パワーも衰えたものだが。



清泉寮ソフトクリーム これだけは逃せない


ソフトクリームを楽しんだ清泉寮ファームショップ
八ヶ岳連峰と牧草ロールを眺めながらソフトクリームをいただく


さて、清里駅まで下り戻ろう。駅前からの石畳道を景気よく下って国道141号線。

ここからまた上り道を野辺山へ走る。

やたら息が上がるのは標高のせい、それとも、寝不足のせい?

信号機の飾りが八ヶ岳山麓の放牧牛なのが楽しい。

やがて県境をまたいで長野県に入った。





やっと道沿いの林が途切れて八ヶ岳連峰が見え始めると、まもなくJRの鉄道最高地点だ。

小さな踏切だ。

標高1375m。清里駅プラス100mか。

最高地点を示す立派なオブジェがあるのだが、その脇に鎮座した小さな鳥居の「鉄道最高地点神社」が可愛らしかった。



JR鉄道最高地点


鉄道最高地点神社の小さな鳥居


最高地点で国道を離れると、一転して見渡す限りの野菜畑の間を縫って走ることになる。

高原キャベツにチシャ、サニーレタス、ズッキーニ。

どれもおいしそうで、自分たちが青虫にでもなった気分だ。

この道でよいのかなとちょっぴり不安になりつつなだらかな起伏のある道を走ってゆく。



おいしそうな高原キャベツが一面に広がる


キャベツとズッキーニ

やがてそのキャベツ畑の向こうににょっきりと巨大なパラボラアンテナが1基、真っ白な姿を現した。

これはなかなかにシュールな光景だ。



キャベツ畑の向こうに白いパラボラアンテナが顔を出す


広い農道を通って近づいてゆくと、大小多くのパラボラアンテナが林立する国立天文台野辺山宇宙電波観測所に到着する。1969年に設立された観測所では、天の川銀河の中心にあるブラックホールや太陽観測に大きな足跡を残している。現在では運用が終わったパラボラもあるが、無料で一般公開されている。

視界を圧するような一番大きい45mアンテナを見上げていると青空に飛行機雲が映えていた。



45mパラボラアンテナ

一直線に登る飛行機雲が巨大なパラボラに似合う

ミリ波干渉計群 八ヶ岳連峰を従えてそびえる

上:電波ハリオグラフ群
下:太陽電波強度偏波計群


観測所のすぐとなりには「ベジタボール・ウィズ」というちょっと奇妙な名前を持つ円筒形の建物がある。

南牧村村営の「星と宇宙の体験アトラクション施設」ということになっているのだが、

その二階には素敵な図書館がある。


ランニングシューズを脱いで中を見せていただく。

広いガラス窓からは八ヶ岳連峰が眼前に広がり、居心地の良いソファーもあった。

静かな閲覧室で一日ゆったりと本を読んで過ごしたらどんなに気持ちが良いことだろう。

係の娘さんがどうぞごゆっくりと声をかけてくれて、屋上に展望台もありますよと教えてもらった。


ベジタボール・ウィズ アンテナ群は飾りだ

こんなところに図書館が

閲覧室から八ヶ岳連峰を望む


観測所と図書館、いささかゆっくりし過ぎたか。

これからゴールの佐久海ノ口までまだ15km近くある。

気を取り直して真面目に走った。


それにしても、いささか天気が良くなりすぎた。

雨対策は持ってきたけれど日焼け止めクリームなんて持ってきていない。

気温は25℃ほどで日陰は涼しいのだが高原の紫外線は強そうだ。


ときおり大型の農業車両が通る真っ直ぐな農道を進み、やがて国道に再会するとまもなくJR野辺山駅に出会う。

駅を過ぎたあたりの道路脇に野菜の無人直売所が見えた。どれどれと覗くと、大きな夕顔の実があった。ヘチマより重量感があるだろう。抱えてみたけど、どっしりと重たくて買ったら大変だ。冬瓜のように煮てたべるそうだが、大家族でないと持て余すかもしれない。


無人の野菜直売所
一抱えもある夕顔の実があった


すぐ近くには村立の小学校。玄関脇に「日本一標高が高い学校」とあった。まるで公民館のような平屋のおしゃれな建物だ。その近くには幼稚園もあって、さきほどの図書館もそうだが、村がこうした教育施設にお金をかけている様子が感じられた。



南牧村村営の小学校
「日本一標高の高い学校」の表示が誇らしげだ
牧草ロールを模した飾りはこのあたりにたくさん
牛か?猫か?


道は北に向かってだらだらと下ってゆく。やがてヘアピンカーブが連続して一気に標高を下げる場所があって、歩道がなくなる車道を避けて脇の旧道を進んだ。車の通りから離れると急に道沿いの花たちが目につき始めた。ボタンヅル、マツムシソウがたくさん咲いている。鮮やかな朱色のフシグロセンノウには久しぶりにお目にかかった。大柄な黄色のメタカラコウも高原の風情だ。



ここから道はヘアピンとなって一気に下る
脇の旧道を走ることにした


ボタンヅルは各所に


コンフリー 鰭玻璃草、領巾張草(ひれはりそう)


ツリフネソウ 近くにはキツリフネも咲いていた

メタカラコウ 高原の花だ


フシグロセンノウ 久しぶりにお目にかかった


ツリガネニンジン


旧道もまたカーブの連続でどんどん下ってゆく。狭い道沿いで出会った集落は佐久甲州街道の海ノ口宿であったようだ。北の佐久平から野辺山へと登る手前の宿場だったのだろう。


連続するカーブを下り切るときょうのゴール、JR佐久海ノ口駅はまもなくだ。

ここをゴールに定めたのは、駅近くのホテル和泉館でお風呂を使えるからだ。

汗を流し、背負ってきた服に着替えてさっぱり。

夕方4時半ごろの小海線に余裕で間に合って小淵沢へと戻っていった。



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