丹沢山地の湧水を味わうマラニック




 渾々と湧き出す冷たい山清水。秦野の丹沢山地周辺には、そのまま飲むことのできる多くの湧き水スポットがあります(文末をご覧ください)。しかも、格好のマラニックコースに沿って。

 この夏に連日悩まされた「危険:運動は中止しよう」なんて熱中症警戒アラートが出なくなってきたら、ようやく日中のランニングが「危険」でなくなって、羽根を伸ばしたくなるというものです。

 よし、あの湧き水を飲みに行こう。

 谷川が流れ、樹影豊かな林道に入れば、下界の気温よりも7~8度も低くて快適なランニング/ウォーキングを楽しむことができます。
先日、妻を誘って行ってきました、空のペットボトルとおにぎりを持って。

コースマップ

 スタートは小田急秦野駅。これから上がっていくヤビツ峠へのバスもここから出ますが、自分の脚で行けばバスの時刻も混雑に思い悩むこともありません。

 最初の湧き水は、弘法の清水。秦野駅から信じられないくらいすぐ裏手の住宅地にあります。

秦野駅からすぐの弘法の清水

 弘法大師が杖で突いて湧き出したとの伝説の残るこの湧水では、近隣の人々が飲水を汲み、野菜を洗います。おはようございますと声をかけ、ちょっとお邪魔してボトルに水を汲ませていただきました。

弘法の清水


 冷たい湧き水で喉を潤したら、さてヤビツ峠までの上り坂に取り掛かります。駅前の水無川を渡り、秦野の街を抜けると国道246号と交差する名古木(ながぬき)交差点。ここにあるセブンイレブンが最後のコンビニです。以前はさらに1キロ半ほど進んだところにもコンビニがあって重宝したのですが、残念ながらなくなってしまいました。

 しばらくは道の両側に住宅が続く坂道を上がっていきます。サイクリストが追い越して行きます。やがて道沿いに水車が現れる場所を過ぎると傾斜が急になって峠までのほぼ中間点の蓑毛まであと一気の上りです。

 蓑毛には小さな売店もありますが休みのことが多いので自販機しか期待できません。トイレもあります。ここで一段落の小休止。ボトルに詰めてきた湧き水で乾きを癒します。ここからは大山への登山道も岐れており、今回は行きませんでしたが、しばらく進めば春嶽湧水(はるたけ)があります。ここも豊富な水量のおいしい山清水です。その山道をたどってヤビツ峠に上がることもできます。

 コースはそのまま車道を進みます。蓑毛を過ぎると道はつづら折りとなって、我慢のしどころ。こちら老夫婦が走り上がっていると、行き交うサイクリストたちや追い抜いていく若いランナーから「がんばれ」、「ファイト」とエールをもらえます。いいかげんきつくなってきたころに菜の花台の休憩所があります。

 菜の花台にある展望台に上がれば富士山や相模湾が一望されます。トイレもありますが、惜しいことにお店も自販機もないので給水などができません。今回初めてキッチンカーが出ていました。聞くと、秦野市が試験的にやっているとのこと。ランナーにもサイクリストにもちょうどよいレストポイントなので継続してほしいものです。

菜の花台展望台からの富士山 ちょうど雲が切れた

 さて、気を取り直してさらに上り坂へ。道はこまかく曲がりながら、ときおり下界を見渡す景色が広がります。途中に表丹沢林道の入り口がありますが、ここから林道に入ってしまうとヤビツ峠も次の湧水もスルーしてしまうので、車道を続けます。道は徐々に狭くなり、車もそれなりに通るのでカーブでは要注意。

 ようやくヤビツ峠に到着すると、苦労して上がってきたランナーやサイクリストたちが晴れ晴れとした表情を見せて集まっています。売店とトイレがあり、3年前には立派なレストハウスまでオープンしました。個人的には、アルコールまで出す立派過ぎるレストハウスがここに似合うのか疑問も感じます。ここで上りはほぼ終わり。あとは下りのお楽しみです。

 ヤビツ峠を通過してしばし下れば2番目の湧き水スポット、護摩屋敷の水に出会います。名前の由来は知りませんが、いつ来ても豊富な山清水がこんこんと湧き出しています。湧き出し口が2個所あって、ほとんどの人は手前の方に行くので、私は奥の方へ。汗だくになった顔や首筋などを洗ってさっぱりと生き返ります。ボトルにお水を詰め直したら再び出発。

護摩屋敷の水



 丹沢表尾根への登山口を過ぎると、その先で林道に入ることができます。丹沢山地には林業目的で設けられた林道がたくさんあり、いずれも林道の両端には車止めゲートがあるので一般車両は入って来ず、通るのは徒歩か自転車くらいのものです。今回もランナー1名と父子連れ1組しか出会いませんでした。風の音とときおり横切る谷川の水音と、自分たちの足音。静かなものです。

 林道に入ってまもなく、道がX字に交差しています。ヤビツ峠へ上がる途中にあった入り口から来た表丹沢林道と出合い、すぐその先で分かれて葛葉の泉(くずは)へと下るのは桜沢林道。葛葉の泉も素敵な場所です。給水場所がしっかりとこしらえてあり、近くの谷川で足を浸すこともできます。私の好きな場所です。


右 真鶴半島を望む

右 ヤシャブシ


 さらに表丹沢林道を進みます。タマアジサイが咲いていました。赤ちゃんの拳ほどのまん丸い蕾がほどけて花が展がっていきます。目を転じるとボタンヅルの白い花が樹に絡みついていました。街なかでも見かけるセンニンソウとよく似ていますが、ボタンヅルの葉には切れ込みがあるかどうかが大きな違いです。

タマアジサイ
左 花の左横に丸い蕾、右 蕾がほぐれて花が開きつつある

コマツナギ(駒繋ぎ)

ボタンヅル 葉に切れ込みが有る

センニンソウ 葉に切れ込みは無い

アキアカネとシオカラトンボ


 簡易舗装の林道は走りやすいのですが、そこはやはり山の中、落石や流出した土砂があちこちに見られます。通過に支障はありませんでしたが、強雨強風の後などには要注意。まれに通行止めになることもあります。神奈川県のHPから林道の通行情報が得られます。

 緑豊かな中をのんびりと走り歩いて行くと、途中に立派な石碑があり「万人愛林緑風万里」と刻まれています。地元横野造林組合による史碑です。ここで分岐する細道を下って大倉近くに至ることもできます。

 8キロほどの表丹沢林道の終点を過ぎて未舗装の道を走り下っていくと、3番目の湧き水スポット、竜神の泉が現れます。道端に流れ下ってくる山清水の脇に湧き出し口が設けてあります。お土産に空きボトルを満杯にしました。

竜神の泉

 ここを過ぎればもう2キロほどで大倉の戸川公園。水無川の河原に降りて裸足になり、流れに立ち入って足を冷やせます。浅い流れは家族連れの憩いの場。まだ帰らないとだだをこねる子どもたちに手を焼く親たちに自分たちの子どもが小さかった頃を思い出しました。パークセンターやレストランもあり、渋沢駅へのバスが出ます。

戸川公園
左 スズカケノキ、右 水無川に架かる「風の吊橋」


ソフトクリームで元気を回復して、私たちは渋沢駅まであと4キロほどを走り下っていきました。


今回のコースの大半は舗装路で、いわゆるトレランではありません。秦野駅からヤビツ峠へは長い上り坂ですが、蓑毛やヤビツ峠までバスを利用すればもっと気軽に林道ランを楽しむこともできます。走ってもよし、歩いてももちろんよし。お茶のボトルを持っていかなくても、おいしい山の湧き水を楽しみながら涼しい山間の走歩で暑さをひととき忘れることができます。キャンプ用の小さなコンロを持っていって、その場で湧き水コーヒーを淹れるのも一興です。


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秦野周辺の湧き水は、山域だけではありません。のんびりと湧き水を訪ねて散歩するのもまた楽しいかと思います。

秦野市観光協会 秦野の湧水 汲める湧水スポット から
https://www.kankou-hadano.org/springwater/placestodraw.html



コメント

匿名 さんのコメント…
湧水、綺麗な水を見るだけで、心が癒されます。雲間の富士山、いい写真です。花や木々の写真もすばらしい。

 いのこ
北島政明 さんのコメント…
いのこさん

のっとひのでる と詠んだのは芭蕉でしたが、
展望台から富士山がなかなか見つからなかったのですが、思いがけない高さに富士山が現れました。まさに のっと出た富士山です。

湧き水巡りの林道ランニングは避暑のランニングもあり、毎年楽しんでいます。