登り疲れた山頂で見る風景 by 南海の豕(いのこ)さん


「走る」ことと「登る」こと

 楽走プラスの投稿に「走ると楽しいのだよ」、「見えないものが見えてくるよ」、さらに「疲れと痛みに耐えながら「もう二度と走るものか」と決めつけても、終わってみれば苦しみはどこかに消え去り、走り遂げた充実感が新たな楽しみを創っていくから不思議」とあった。楽しいことは単に楽というものでもない、実に面白い。さて、山登りはどうだろう。
 南アルプス南部に標高2592mの光岳があり、深田久弥の日本百名山に選ばれている。百名山の中では、交通の便や長い登り道が続くことから、登りにくい山の一つでもある。10月下旬、意を決して登ることにした。天気も上々。山小屋泊りだったが、そこで見た景色、そして感じたことを紹介したい。

光岳(てかりだけ)から見た景色

 山小屋の朝は早い。光岳小屋の朝食は日の出前の5時、外はまだ暗い。朝食後、食堂から見る朝焼けはとても綺麗だった。


 食堂からの眺め。


 日の出まで30分ほどあり、ゆっくり温かいお茶を飲んで、小屋の前から日の出を見る予定だった。そんな時、小屋の人が「イザルガ岳からは360度の展望で、素晴らしい」と話すではないか(イザルガ岳は下山道沿いにあって光岳のほぼ真東にあり、小屋から15分ほど)。こんな言葉に反応する性格は面倒ではあるが、楽しいことも多い。急いで身支度をしてイザルガ岳に向かうことにする。小屋から往復して下山すると余分に30分かかる。小屋出発は5:31、静岡市の日の出は5:55だが、標高が高いと日の出も少し早くなる。さあ急ごう。


 小屋出発時の写真。富士山の左になだらかなイザルガ岳、空が明るくなりつつある。


 実は、ここまで登って来るには大変だった。前々日は、対向車に遭わないように祈りながら、狭い道を芝沢ゲートまで辿り着いて車中泊、前日は、3:30の暗いうちに出発して、4:20に林道終点の易老渡経由で13:20に光岳小屋まで登ってきた(前日の累積上り2350m下り537m)。かかった時間は10時間ほど、コースタイムは8:10、休憩時間などを入れれば、まずまずだ。夕方5時の食事までに時間があるため、少し休息して、光岳山頂と光石に行く。夕食はタイ式カレーで実に美味しい。消灯までの時間を山仲間と日本酒をたしなみながら、歓談。疲れもあって、マイシュラフでバタンキュー。このあたりのお話は、またいつか。

 話を戻して、日の出直前5:45にイザルガ岳に無事到着、10人ほどがすでに山頂で日の出を待っている。寒いが、凛とした寒さが、心地よい。たしか、朝食時に小屋の人が、「今日は、零度以下」、「水道が凍って出ないので、後で修繕しないと」と言っていた。空には雲一つなく、快晴。いよいよ日の出だ。

 イザルガ岳山頂で日の出を待つ人たち。


 富士山と日の出、なるほど遮るものがない。


 さて、イザルガ岳からの展望を、周辺の百名山の位置を描いた地図を参考に、東から南、西、北へと紹介しよう。日の出の写真からも、東の方向には富士山があることが分かる(端正な姿に、ついシャッターが多くなる)。


 光岳周辺の日本百名山。


 朝の富士山。


 南西方向にある山並み。


 朝日にほんのり赤く染まる光岳。


 中央奥に恵那山、手前に薄く映るのは光岳の影か?


 中央アルプスの山々。南(左方向)に空木岳、北に木曽駒ヶ岳の2つの百名山がある。


 御嶽山、さすがゆったりとした大きな山。


 イザルガ岳から南方向には、光岳よりも高く大きな山は見当たらず、山並みが淡く波打って広がる。西には今回本命の光岳が朝日にほんのり赤く染まる。少し右には恵那山が、さらに右には空木岳(うつぎだけ)や木曾駒ヶ岳のある中央アルプスが見える。中央アルプスの向こうには、淡く御岳山が、さらに奥に乗鞍岳と白山らしき山も。中央アルプスの右には、穂高連峰から槍ヶ岳が確認できる。さらに右の北東方向には、聖岳(ひじりだけ)がきれいな三角形を作る。聖岳の左に見える尖った山が仙丈岳(せんじょうだけ)とのこと。赤石岳や北岳、さらに向こうにある八が岳、また関東北部にある百名山の山々、筑波山も山の陰になって見ることができない。


 穂高連峰から槍ヶ岳。


 聖岳。


 さて、山の風景、みなさんはどう感じるだろう、「登る」は「走る」に似るだろうか。「走る」を「登る」にかえて、「登ると楽しいのだよ」、「見えないものが見えてくるよ」と、また、「もう登るものかと思っても、登り遂げた充実感が新たな楽しみを創って・・・」と感じるものがあるだろうか。「ああ疲れた、さて次はどこに登ろうか」と思う私かいる。まだまだ登って、いろんなものを見て、いろんなことを考えてみたい。


追伸 6:22イザルガ岳をあとに、下山開始。易老岳までは、比較的なだらかな尾根筋を歩き、そこからは急峻な山道を下る。11:08に易老渡に着き、そこからは自転車で快適に林道を下り、11:38に芝沢ゲートに着く。易老渡までの往復は、この山行のために購入した折りたたみ式自転車を使う。往路の半分ほどは、自転車を降りて押して歩いたが、復路はペダルをほぼ漕ぐこともなくルンルン。そして、無事に自宅まで帰ることができた。


 下山時の稜線で見た氷と霜柱。


コメント

匿名 さんのコメント…
素晴らしい!素晴らしい!その一言しか出てきません。写真は全部絵葉書のようです。
登山する人はこのために登るのだ!そんなことを感じました。
匿名 さんのコメント…
匿名さん、コメント頂き、有難うございます。走る人も登る人も、そのたびに、いろんな楽しさや喜びに気が付くように感じます。それがまた、その時々で異なるのも面白いところです。匿名さんからのコメントで、「そうだ、私はそんな風景の美しさに、登る理由を感じているかも」と改めて理解しました。それが、なんとも苦労する、疲れるということがあれば、強まるのかもしれません。あと、遠くの山の写真が多いことから、美しさ以外にも、何か感じつものもありそうです。匿名さんの温かい心配りに、とても感謝です。

南海の豕