自分の新しい秋を見つけたい 野火止用水 全長マラニック

野火止用水始点近くの山茶花

澄んだ秋の空気のもと、ときには知らない土地を自分の脚で走りにでかけたくなります。
秋の好日、少しの着替えとカメラをリュックに放り込んで、妻とともに出発しました。

野火止用水は、江戸時代初期に開削された江戸中心部への灌漑・生活用水路です。立川市で玉川上水から分岐すると澄んだ水を保ったまま北東方向に25kmほど流れ、埼玉県志木市で新河岸川(荒川の支流)に注ぎます。玉川上水よりもずっと細い小川のような風情です。秋空を映す水面を流れてゆく木の葉のように、妻と私もさらさらと走り歩いていきました。


多摩モノレール玉川上水駅を下りるとほどなく豊かな樹木に包まれた心地よい歩道に入ります。この歩道に沿って流れていたらしい当時の野火止用水を思い浮かべながらしばし進み西武東大和市駅の向こうで住宅地に入れば、水の流れとの出会いはもうすぐです。

小さな水路は静かな住宅地の中に突然現れました。立ち並んだ住宅の玄関前を流れる用水では数人の子どもたちが川で遊んでいます。「魚がいるんだよ」と男の子。季節にはホタルも飛ぶようです。

野火止用水の流れは住宅地に突然現れる

流れに沿った景色はどんどん変る。宅地からすっと離れると林の中を流れ始めて現れるのは林間の静かな土道だ(野火止緑地)。お散歩する人を数人ほど見かけた。水路の幅は狭いが雰囲気は玉川上水とどこか似ている。

野火止緑地

樹林の中を流れたりもしながら、やがて九道の辻とも呼ばれる八坂交差点を過ぎた西武多摩湖線の先で、野火止用水は多摩湖自転車道とクロスします。多摩湖自転車道はいつでも走っている人がいる落ち着いた雰囲気のランニングコースです。

野火止用水とクロスする多摩湖自転車道

用水がふたたび郊外の住宅地に入ると流れに蓋がされた暗渠部分が繰り返し出てくるようになりますが、その多くは緑豊かな歩行者道に整備されて下町風情にほっとします。そしてまたすぐに顔を出して土と草の小川となって流れます。ほとりには古い石の祠などもあって人々の日常に寄り添う用水の姿がありました。道沿いに移築された水車は恩多野火止水車苑です。

左が暗渠。歩道になっている。
植え込みを挟んで右(幟があるところ)が車道

すぐまた流れが現れる

恩多野火止水車苑

野火止通りが新小金井街道と合流すると車が多くなりましたが、車道の脇にはしっかりと樹木と草地の土手で囲まれた用水が流れ、用水で隔てて土道の歩道が姿を現します。このあたり一体の地名が野火止。焼き畑などの防火帯の意味に由来するようです。当時は広大な原野だったのだろう光景が目に浮かびました。

野火止通りに沿った用水と土道

暗渠(上)は心地よい歩道 囲碁の看板がのどかだ
暗渠も開渠(下)も宅地の植え込みがよく手入れされている

車道の真ん中に暗渠の痕跡が残っていたりする(新堀交差点)

車が減ってすっかり田舎道になり野火止用水史跡公園をすぎると、やがて樹林帯に入りました。車道とは完全に離れて一段落、ここらで一休みしておにぎりでも食べることにします。用水を目の前にしたベンチに妻と腰を下ろし、向こうに見える色づいた大樹はなんだろう、今聞こえたのは何という野鳥の声だろうと話が弾みました。

ここらでおにぎりタイムだ
新座市総合運動公園近く

この先でアンダーパスになっている関越自動車道の「上」を野火止用水が流れます。珍しい用水専用の橋「野火止水路橋」です。人間はちょいと遠回り。

関越道の上を流れる野火止水路橋

関越道の向こうで田舎道に戻ると平林寺。ここは玉川上水と野火止用水の開削を行った老中松平信綱の墓所がある古刹であり、天然記念物にもなっている豊かな森に囲まれた紅葉の名所です。

平林寺雑木林の外縁
刈り込まれた植え込みと樹林の間を用水が流れる


平林寺の地領を過ぎると野火止野鳥の森。そして広い畑地を通り、川越街道の大通りに突き当たるところで野火止公園に至ります。ここが野火止用水の開渠区間の終点。川越街道下の暗渠に吸い込まれてしまうのです。

野火止野鳥の森へ入る


開渠部分の終点となる野火止公園
すぐ向こうは広い川越街道だ

歩道橋で川越街道を渡ってから先は住宅地や畑地の中に暗渠と覚しき路を見つけながら辿っていきました。ちょっとした探検気分。それも東武志木駅手前の下東公園の辺りでついに途切れてしまいます。志木駅を通り抜けてさらに進み、やがて柳瀬川と新河岸川に行き着いたら野火止用水の終点。近くには野火止用水を集落に届けた木製の樋が「いろは樋」として復元されています。貴重な水路を維持するための管理は大変だったことでしょう。

暗渠をさがす
車道と分離されたり(左)、住宅地の小道(右)は暗渠らしい

新河岸川に架かる「いろは橋」から上流方向を見ると、一つの水門が見えました。おぼつかない暗渠を伝ってなんとか野火止用水の終点を見つけることができたようでした。

新河岸川に見えた水門
野火止用水の出口かどうか確認できなかった

志木市役所の道路向かいには游水公園とパン屋があります。妻も私もおいしいパンには目がありません。店外のベンチでぱくついてお腹を落ち着かせたら、新河岸川の流れに沿ってJR武蔵野線の北朝霞駅へと走っていきました。


コメント

匿名 さんのコメント…
のどかな感じの道が続いているようですね。さぞ楽しく走ることができたことでしょう。ひょっとして、野火止用水の水の流れに負けないスピードが出たかも・・・。後半部のトレースがやや寄り道気味なのは暗渠が多くなったのでしょうか。天気も上々のようで、何よりでした。 いのこ
北島政明 さんのコメント…
田舎道と街中とを静かに流れてゆく野火止用水です。平らな関東平野ですのでゆるゆると流れていきます。私たちもそのように走り歩きました。マラソンとピクニックを合わせた造語であるマラニックの言葉通り、ピクニック気分で走り歩いた野火止用水です。

野火止公園以降は用水が完全に地中に潜ってしまうため流れを見ながら辿ることはできず、あっちかな?こっちかな?となりました。それもまた楽し。